父を乗せた車
もうその花の季節はすぎてしまったが、今頃になると、父を乗せて病院までの丘沿いの道の途中に街路樹として植えられたハナミズキの花を思い出す。車は、父がリハビリに通うために、手に入れたものだった。脳梗塞を患う父の車への乗り降ろしは、リハビリ中付き添っていた母だけでは心もとなく、行きだけは車を利用した。ハナミズキのそばを通ると、後部座席では母が父に春になると花をつけることをつぶやき、父も不自由な言葉で返事をしていた。しかし花の季節が 3回くらい巡ってきただろうか、再発作で父は逝ってしまった。車の運転は苦手なほうで、後ろから別の車が来たので、慌てて声を荒げながら不自由な父の足を車の中に押し込んだような具合になった。その時が父を乗せての最後の運転となってしまった。
昨年から、その車は旧T診療所から、N診療所まで、患者さまを乗せての「定期便」として使うようになっている。車のそばを通るたび、寡黙にリハビリに取り組んだ父の姿、リハビリの成果で、最晩年には遠く北海道の地で、元勤めていた会社の同僚・部下に再会した時の父の笑顔などがふっと浮かんでくる。
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