週の初め、月曜日の外来診察は、たいていその科の部長クラスの医師が担当する。小児科の場合、週末からの発病が多く、その月曜の外来はいつも混んでいる。「エース」登場でお手並み拝見というわけだ。まだ駆け出しの医者だった頃、外来での研修は、その部長の指導医(Oben)につきながら、一言一言を書き留めることから始まる。(ドイツ語で、書く人=Schreiber と言う)やがて、ひとり立ちして、外来診療が任されるのであるが、それでも時々は指導医のチェックが入る。しかしその日は、医者の割り振りの関係で、伝染性疾患を診る隔離室担当であった(したがって、医者そのものも隔離される!?)。そこにインフルエンザと思われる子どもがやってきた。
― この子、土曜日の夜から熱出てますねん。
― ん、こりゃ、ほんまの Saturday Night Fever やね。(ここらへんまでは、友好的な雰囲気…)
― インフルエンザちゃいまっか?
― どれどれ、あ、そうや、のどが赤いから、ソ連型かね。(だんだん、親御さんは、怪訝な表情になる…)
― そんなんで、ソ連型と香港型の区別がつくんでっか?
― 当たり前や、香港型は、咳に特徴があるんやで。
― ? (まだ、それでも話を聞こうとはする…)
― ホンコン、と咳するんやな、これが…じゃあ薬だしとくわ、お大事に!
― (完全に、憮然…)
その後は、二度とその親子は当方の前に姿を現さなかった。手軽なインフルエンザの診断キットもなく、第一こうした洒落も完全に時代遅れになるほど、遠い昔の話である。今年は、冬から春にかけての流行期を過ぎても、たまにインフルエンザの患者さまを診る事があるが、もっぱらタミフル投与の是非について話さなければならず、こんなギャクを言い交わす余裕がないのは、かえって寂しい気もしている。
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