井上ひさし「太鼓たたいて笛ふいて」


ゲット価:380円

今年 4月から、西成医療生協機関紙「さわやか」の簡単な書評欄を担当している。ちょうど、いいネタがあったので、来月分としてストックすることにする。続きは、その文案である。

「めし」文学碑

「めし」文学碑

天下茶屋周辺を舞台にした小説をご存知だろうか?古くは、夏目漱石の「行人」の冒頭部に出てくる。戦後になると、林芙美子の「めし」に、天神ノ森から天下茶屋、ひいては戦後の通天閣再建前のジャンジャン横丁や新世界の風景が描かれている。天王寺の市立美術館そばに、その文学碑がある。(写真)
林芙美子は、「放浪記」「浮雲」の作家で有名だが、戦時中は、中国での戦線報告などで、時の軍部の宣伝に一役買っていた。本来は「物語」を作り出すはずの作家が、時の権力が仕掛ける戦争という「物語」の罠に絡め取られてしまう。その妄想に気づいた林芙美子は、戦後その反省から、犠牲者たちにわびる思いで、小説を書き続けた。

その笛と太鼓で戦争未亡人が出た、復員兵が出た、戦災孤児が出た。だから書かなきゃならないの、この腕が折れるまで、この心臓が裂け切れるまで。その人たちのくやしさを、その人たちにせめてものおびをするために……

学生時代、東京新宿界隈かいわい彷徨さまよっていた時、井上ひさし氏の芝居の切符を、余っているからと、タダでくれた奇特な方に出くわした。その芝居を見てから、彼の芝居のやみつきになった。何作かは実際に観たが、大部分は、読む戯曲レーゼドラマとなった。その中でも、「太鼓たたいて笛ふいて」は、傑作の一つである。何よりも登場人物が優しく扱われている。林芙美子を国策宣伝に駆り立てる「悪役」も出てくるが、戦後の変わり身の早さも、どこか憎めない役となっている。(それが、「悪」の本当の怖さだと本の解説で扇田正彦氏は書くが…)
ご存じと思うが、井上ひさし氏は、憲法改悪を阻止しようと活動する「九条の会」の中心メンバーの一人である。「せめてものお詫びを」と決意していた林芙美子の思いもそこには込められているのであろう。戦争放棄=恒久平和という戦後の「物語」はその戦争犠牲者の上に立って始められたのであり、そのドラマを、今の時代で幕を降ろさせてはならないと改めて思った。

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