藤本義一「ふりむけば朝」

集英社文庫(現在は絶版)

ゲット価:200円

江戸時代の大阪に関わりある人物として、近松門左衛門、井原西鶴、上田秋成などの「文学畑」の人たちと並んで、天保年間、元天満町与力として「救民」のために義兵を挙げた大塩平八郎は欠かすことはできないだろう。古くは、森鷗外の「大塩平八郎」で有名だが、どちらかと言えば「歴史其儘」で、彼の性格や人物像に触れた個所は少ない。それでも、鴎外は「大塩平八郎は、覚醒せざる社会主義」と、作品の書かれた大正はじめの世相に引きつけて書いている。鴎外大人がこう書いた以上、それ以後、「歴史其儘」を引き継いで、「歴史離れ」の大塩平八郎の人物像を作ることは出来にくくなったのではなかろうか?

実際の大塩平八郎は、妥協を許さない厳格主義者であったらしい。「体制」側から言えば、いわば「不平・不満分子」と言えるかもしれないし、「反体制」側からも「指導者」として未熟な側面もあったのだろう。そんな大塩平八郎の人物を、藤本義一氏は、かたや「優秀な役人」かたや「名探偵」そして何よりも「民衆の味方」として、森鴎外の書かなかった天満与力時代の事件を中心に「講談・大塩平八郎」に焼き直している。

—いたずらに人禍を怖れ、ついに是非の心をくらますは、もとより丈夫の恥ずる所、しかして何の面目ありて聖人に地下にまみえんや、ゆえにわれまた吾が身に従わんのみ。

この事件の「解決」を通じて、彼は、幕府体制の腐敗とそれに寄生する直面する町人たちという大きな闇に直面する。そして、「吾が身に従わん」として彼の択んだのは、闇に一筋の光明を照らすべく、決起への道であった。


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