こどもの細菌性髄膜炎のこと

今日も、熱のある子を連れて、お母さんは心配そうに診療所を受診されています。子どもを診療する上での大事な点の一つは、その熱の症状に重大な疾患が隠されているかどうかを見極める点にあると思います。熱の大半は、ウィルス感染症で、それに効かないような抗生物質は必要ありませんし、子どもの免疫の力で自然と治るものです。とは、たいていの小児科医が力説するところで、これ以上つけ加える事はないのですが、それでも家族は、わが子がたまたま例外的に重症だったら、という不安感でいっぱいです。


ルンバールに使った翼状針

今は成人となった娘が生後一ヶ月の月齢で発熱した時には、こうした家族の立場になったことがあります。母親の免疫が残っている乳児の前半期には、あまり熱を出さずにいます。逆に幼弱乳児の発熱時には、通常のウィルス感染以外の急を要する病気も考えられます。この辺の見極めが小児科医の真骨頂なのですが、夜中にわが子が発熱したので、いてもたってもいられず、勤務する病院の救急外来に連れてゆきました。応対した医者は、当時当方が指導医の立場にあった研修医。型どおり一通りの検査をしようということになりました。想定しなければならない疾患の最重症は「細菌性髄膜炎」。診断をつけるためには、腰から脳脊髄液をとる腰椎穿刺ルンバールをしなければなりません。ルンバールは、「神業」とも言える小児科医の技術で、小さく固定も難しいような子どもの狭い腰椎間に正確に針を入れるのは、それなりの経験、場数が必要です。「那須与一の動ける船の扇に矢を当てるがごとし」とは恩師の故今村雄一先生の口癖でした。その研修医に「ちゃんと固定するから、良い経験だから、ルンバールしてごらん」と言いましたが、相手は、かりそめにも指導医の愛娘(^^;)、彼はその場に足が(手が?)すくんでしまい、仕方なく、親の身ながら、娘の髄液検査をしました。年長児用の穿刺針が使いづらいので、翼状針という点滴用の針を使ったように覚えています(写真は翼状針と 10円硬貨)。幸い、髄膜炎ではなく、臍部の皮膚感染(蜂窩識炎)の診断で、数日間の入院ですみました。今から 25年も前の話です。

その頃の病棟では、細菌性髄膜炎の子どもが、何例かは入院され、主治医としても治療に当たっていました。治った子もいれば、不孝な転帰となった子もいます。インフルエンザ桿菌や肺炎双球菌という細菌がその起炎菌で、何とか予防できないか、というのが小児科医の願いでした。しばらくして、インフルエンザ桿菌の予防接種(インフルエンザ桿菌の略号 Hib をとってヒブワクチンといいます。)が完成、今では世界の約 100ヵ国で使われ、インフルエンザ桿菌髄膜炎に、大きな効果を発揮しています。(肺炎双球菌ワクチンもアメリカで実用化されています。)残念ながら、日本は、ヒブワクチン後進国、アジアで定期接種に入れていないのは、日本の他には数カ国だけです。ようやく、製造認可がおりたのは今年になってから、それもうつとなると 数万円以上の費用がかかります。現在、多くの小児科医や民医連、髄膜炎の親の会が一緒になって、「公費で定期予防接種」の署名活動などをしていますので、ぜひご協力お願いします。

現行のポリオ生ワクチンが導入させるまでは全国の母親の大きな運動が背景にありました。その取り組みに協力したのが、前述の恩師今村先生です。「予防は治療に勝る」というのも先生のもうひとつの口癖でした。ヒブワクチン運動には、今村先生の勤務された耳原総合病院の武内先生も協力しています。病棟勤務のあの時代、治せないで痛恨の思いをした子どもたちのためにも、このブログに、「Hib ワクチンをこどもらに!」たすきバナーを張り、今後も訴え続けたいと思っています。

【参考】


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